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Livre de recettes

APR 1o, 2o21
Livre de recettes

”料理本”

引っ越したばかりのアトリエには、いろんな荷物が届く日がまだまだ続いています。休日出勤していた先週末、ストックを入れる為に注文したケースが入った大きな箱を、数箱持ってきてくれた配達員さんから、”ギャラリーの方へ宛てた荷物だけど渡していいですか?”と受け取ったのが、この猫沢エミさんの新刊「ねこしき」だとわかった時の私の驚き様を、どう伝えたらわかってもらえるでしょうか…。

昔、なにかの雑誌で猫沢さんのコラムを読んだ記憶があり、珍しいアーティスト名と本当に猫のようなチャーミングな表情と、異国からのエッセイというのが印象的で、海外と日本を行き来しているミュージシャンなのだな、と当時思っていました。

8年ほど前、友達であるカメラマンの小宮山夫妻が撮影したということで、あの記憶にあった猫沢さんの猫との暮らしのエッセイ本を紹介していて、猫好きとしては買わねば、と即注文して読んだのですが、私が淡くイメージしていた猫沢さんと、そのエッセイから感じられた猫沢さんは、全く違っていたのでした。その「LA VIE avec un CHAT」は、どうやって猫と暮らしはじめたのか、出来事の度にどう内観してきたのか、どうやって自分の想いを人生に投影させてきたのか、痛いほど共感出来る同世代の、飾らないありのままの1人の女性のエッセイだったのです。

そして数年前、小宮山夫妻のギャラリー「Le Tiroir」で展示をさせていただいた際、彼らのお友達としていらしてくださったのが初対面でした。カーディガンやイベント用に仕入れていたフランスの古いお皿などを求めてくださったのですが、とってもきさくな方で、それ以来勝手に親しみを覚えていました。

その後、Instagramで猫たちとの暮らし、美味しそうな料理のPOSTの数々を拝見していましたが、2019年パリで3回目のSARAXJIJI展示の際、猫沢さんが告知してくださったことで、「猫沢さんのInstagramを見て来ました!」というパリ在住のフォロワーの方々が何人もいらっしゃったのにびっくり。その中の1人の方が一緒に写真を撮ってくださり、その方がすぐに猫沢さんに写真を送ってくださり、それを猫沢さんが小宮山夫婦に送ってくださり、小宮山夫婦がその写真を私に送ってくれ、数十分のうちにパリから日本を回って私の携帯に写真が届いたという(笑)、そんな珍事もありました。ご紹介いただいたことも、猫沢さんのフォロワーさんがみなさん素敵だったことも、ただただ嬉しかったのを思い出します。

そんなゆるやかな交流を、Instagramという媒体を通してさせていただいていた中、新たな同居猫イオちゃんの存在を陰ながらずっと応援していたのですが、こんな猫バッグあったらいいな…というPOSTにSARAXJIJIの素材をあげてくださって。そう言っていただけるなら…と選んだのが、昔使っていたブラウン系のラフィーガーゼ。イオちゃんの雰囲気に似ていて似合いそうだし、柔らかいから、イオちゃんが気持ちいいと喜んでくれたらいいなと思い、なにかに使ってもらえたらと残布をお送りしたことがありました。(それは後日、イオちゃんのお顔を優しくカバーしながら取り替えられるバッグ用のスタイになりました。)

そんなことを思い返しながら、届いた「ねこしき」の本と同封されていた書類で、新刊発売前に献本くださったことがわかって、折しも少し前にイオちゃんのことを見送った彼女のPOSTも見ていたから、ちょっとしたプレゼントをした私にまで、こうやって本を送ってくださるなんて…と、嬉しさと彼女の愛情の深さを感じてしばらく呆然としてしまいました。

彼女の本を読んでいると、たくさんの感情をすべて味わい尽くそうと決めて生まれてきたに違いない、猫沢エミというヴァージョンは1回きりだからと、たくさんのコントラストを楽しむために、好奇心旺盛にめいいっぱいスケジューリングしたんだろう、と思えて仕方がありません。50代という年齢への時は、誰にでも平等に流れて辿り着いているはずだけれど、その密度は本当に様々で、経験しなければ、きっと今味わっているここには辿り着けていなくて、ひとつひとつ自分の中に取り込んでは、しっかりと受け止めて、熟成させて自分の血肉にしてそれを誰かに惜しみなく手渡していっているんだなと。食べること、猫と暮らすこと、仕事をすること、人と繋がっていくこと、人間だからこそ味わえるすべてを、しっかり味わってるなぁと、彼女のユニークで真似したくなる美味しそうな料理レシピの数々と感情豊かな生き様に、同世代の女性としてものすごく元気をもらえました。また「LA VIE avec un CHAT」も読み返したのですが、8年前に読んだ時より私も大人になっていたせいか、改めて感じたことも多く、「ねこしき」とセットでより深く”人生を楽しむ術”を味わえた気がします。この「ねこしき」、同世代の方も、若い世代の方にも勧めたい本です。料理好きで社会人1年生の娘にも買ってプレゼントしたいなあ。